新二元論   1   笑 い  

人は口を開けて笑う。でも何故人は笑うのだろうか? 面白い対象を目にしたら誰でも、いつでも笑うとは限らない。例えば面白い話をする人がいたとする。でもその人の話しが「身体的欠陥をあざけるような」内容だと、人は笑わない。笑ってはいけない、との抑制が働くからだ。
また笑いは、人間の持つ攻撃性が刺激されることが笑いの原点であるとされる。しかし攻撃性が発揮されるとき、必ず人は笑うとは限らない。格闘技の選手は戦っているとき、笑っていたら相手に叩きのめされてしまう。いつも真剣に向き合っていなければ負けてしまうのだ。
では人が笑うのはどういった場合であろうか。二元的要素として次の2要素の反応で笑いが起こる。
内面要素としては、相手を「バカにする」感情が心的に潜在、顕在する事。
外面要素としては、そのバカにする対象が、「面白い行動、状態」を表すこと。
この二元的要素が脳で反応を起こし、笑いの行動が起こるのである。
「バカにする」行動は、攻撃欲の範疇ではある。だが攻撃欲の直接の行動形態である、口論、喧嘩、傷つけ、とうの行動と比べ、バカにする行動は「非暴力行動の内面性」が顕著である。内面的要素としては、攻撃性と表現するより、「相手をバカにする」要素として捉えるのが適切だ。
性的行動も本来は性欲の範疇であるが、攻撃欲とリンクするばあが多い。例えば、ある女性が野球を見ていたとき、捕手の股間にボールが当たり早く痛みを癒そうとして、ぴょンぴょん蛙飛びをした。その光景を見て笑い出したとしよう。
この場合外面要素は蛙飛びの動作である。内面要素はこの場合複雑だ。股間から彼女は性的要素を連想し、次にこれは仮想行動だが、捕手が自分に性的行動を仕掛ける動作を仮想連想する。更に、男性からの性的行動は反作用として自らが相手に対する性的行動を仮想連想させる。この性的仮想行動が攻撃欲領域を刺激する。
この複雑な組み合わせを一瞬に脳で行い、捕手の飛び跳ねる動作を見て、彼女は笑うわけである。この場合は「攻撃性」と「バカにする」が密接に関連し笑いを起こさせるのである。
では人は自分を笑うことはあるだろうか。攻撃欲は他人にアプローチする行動だから、自分を笑うことは本来起こり得ないはずだ。しかしご存知のように、自分に対する最大の攻撃として自殺行動がある。
人は自らに対しても攻撃性を示す場合があるのだ。この例を示そう。
Aさんが地下鉄に乗ろうとして、急いでドアに向かっていた。しかし無情にもAさんが乗る直前にドアがさっと閉まってしまった。
この場合たいていAさんは閉まったドアを見て笑うのである。Aさんは地下鉄の中の乗客を笑っているのではない。では誰をバカにしているのだろうか。何が面白い行動なのだろうか。
まず面白い行動だと感じているのは車内の乗客の方だ。走りこんできたAさんが、直前でドアが閉まってしまい、面白がっている。Aさんは、その感情を連想しているのだ。
では内面ではどんなことが起こっているのだろうか。乗客がきっと自分をバカにしている。きっとしているに違いない。そう思いつつAさんは自分自身をバカな奴だと連想しているのだ。
この結果、苦笑いに近い笑いをAさんはするわけだ。内面、外面、自分、他人の複雑な交錯があるので、単純な高笑いにはならず、苦笑いとなるわけだ。
次に人間はどんな対象を笑うのだろうか。人に対して笑うのは当然だ。では動物はどうだろう。事物に対してはどうだろうか。
まず動物に対しては、人間に近い動物、感情の豊かな動物ほど笑いの対象になる。バカにする感情が生まれやすいからであろう。では事物に対してはどうだろうか。
事物に対しては、感情表現の少ない動物以下の対象だから笑いは起こりにくい。但し人間によく似た作り物の場合、仮想連想が働き易いから、事物に対しても充分笑いの対象になる。
不謹慎な話しだがこんな例がある。葬式の席でいきなり笑い出す場合があるのだ。葬式だって、いろんな面白い行動を目にすることはあろう。しかしあくまでも葬儀の場だ。そんな場所で笑うなんて考えられないと思われるだろう。
しかし人は心の底で(潜在的に)、死人に対して、攻撃性を感じる場合があるのだ。当然のこととして、死んだ人に対して、その死を悼まない人ほどその程度は大きくなるが。この場合、葬儀という場所そのものが攻撃性を誘発するのだ。だから、まれな例だが、ちょっとした面白い行動を目にしただけで、高笑いを始める人が出るのだ。

こういった二元要素の仕組みを理解してくると面白い会話も生まれる。私がよく行う例を紹介しよう。
数人で語り合っていたとしよう。私がある発言をしたとき、相手の面々が笑った状況で。
私「今、皆さんは私の事を笑ったでしょう? 知っていますか? 笑うと言うことは相手をバカにしていることですよ」
皆「いいえ、全然違いますよ。ちょっと他を連想して笑っただけですよ」
私「ではテストをします。口をじっと閉じて、絶対笑わないで下さい。いいですか」
皆「はい、絶対笑いませんよ」
私「さっき皆さんが笑ったのは、私をわらったのでしょ?」
 そういって口をつぐんでいる皆さんをじっと睨み回すのです。暫くすると、一人二人と、堪らず笑い始めます。そのうち、大爆笑の渦が起こります。そして和やかな雰囲気が生まれます。